三好鋭郎の講演録「やまいをバリアフリーする」
 

一九八〇年の正月、高熱を出して香川県立白鳥病院に飛び込みました。「急性腎炎です。即入院してもらいます」と宣告されました。尿の中に棒状に固まった血柱と、蛋白が大量に混じっていたのです。入院中、東京の兄から甲田光雄先生(元阪大の医学博士)著の『断食療法の科学』が送られ、「断食や生(なま)菜食、少食によって血液循環が早まり、すべての病が直るか好転する」と説かれていました。その説得力に心酔して病院をぬけだし、四月末には八尾市の断食道場“甲田医院”に移りました。


まず、薬は毒を調合したものだとして、どんな重病人でも完全に絶たれます。朝食は、ホーレン草、レタス、チシャなど季節の野菜ジュース一合だけで、茶碗に半分の玄米粥を最後に、五月二日から一一日間の「すまし断食」に挑みました。その間、だし汁、醤油、黒砂糖で作った、昼と夜の二回で五〇キロカロリーの“すまし汁”を飲みました。生水とビタミンを沢山含んだ柿茶は毎日二リットル飲み、全身の筋肉を動かす十種類の“西式健康体操”を毎日一時間続けました。

一ヶ月の間に約六〇回トイレに通い、砂状の茶色い便がひと握りずつ出てきました。腸壁に付着した“宿便”のガスが、血管を通して内臓をおかす“万病のもと”だといいます。その質は十人十色で、大体バケツに半分ぐらい滞っていると聞きました。後に説明する長期間の生菜食か断食が、もっとも全身の血液循環を早め、宿便を押し出してくれるとのことです。


就寝には柔らかくて厚い上布団が与えられたのですが、ベニヤ板のベッドに厚さ一センチほどの薄い布団を敷き、半円型の木枕の上に背首をあてて寝ました。背骨をまっすぐに矯正し、背首の血液循環をよくするためです。起床後は、五時半から窓をあけ素っ裸になり布団をかぶります。そしてまた外します。この繰返しで序々に裸の時間を伸ばしました。初期の癌に絶大な効果があるという三〇分の裸療法は、皮膚を強くし体内の一酸化炭素を発散させると学びました。現在も毎日続けている西式健康体操は、肩凝り感が激減するとともに、疲労回復や時差地獄の克服に絶大な効果を発揮しています。


毎朝七時半から名物の朝礼があります。二人部屋に分宿していた二四名が手を上げて合掌し、禅寺のお坊さんがあげる「五観の偈」を唱和して、厳しい断食や少食を誓います。次いで「異常のある方は」と、甲田先生は微笑みを浮かべて問いかけます。どんな質問にもスラスラと答えが返り、その専門知識の深さに舌を巻きどおしで、“玄米は食べ物の王様だ”と学びました。灰分・カルシウム・リンは約二倍、カリウムや脂質は約二・三倍、繊維や鉄分は約三倍、ビタミンB1やB2は約四倍も白米より多く含まれています。また、黒砂糖には、灰分が三倍、ナトリウムが十倍、カルシウムとリンが三〇倍、鉄分が九〇倍も白砂糖より沢山含まれています。玄米や黒砂糖には、生命の維持に不可欠な栄養素が満載されており、我が家は、玄米、黒砂糖、天然の塩に変えました。


因みに、鉄分は成長に欠かせない栄養素で、出血時や妊娠中に大量に必要です。また、カルシウムは一日に千ミリグラムは必要で、骨粗しょう症などの予防に欠かせません。カリウムは肝臓の老廃物を早くおいだし、高血圧や便秘の解消に必須の栄養素です。ビタミンB1は脚気や糖尿病を予防し精神を安定させます。ビタミンB2は成長促進剤で、目の充血や口内炎ならびに肌荒れなどを防ぎます。ナトリウムは神経伝達や人体の調節機能をはたし、生命維持に不可欠の栄養素です。リンは骨や歯の原料となります。
朝礼では、小学生時代に白斑(はくはん)病に罹って肌が白くなり、大学病院を転々としたS嬢の話を聞きました。ある夜、となりの部屋から両親の声が聞こえ、「このままじゃ、あの子をお嫁に行かせられん」と。幼くしてそう覚悟した悲しさや、インターンや看護婦さんの前で、裸の写真を撮られた経験を涙ながらに話しました。その白斑病が生菜食で直ったと聞いて入院してきたのです。生後六ヶ月で小児麻痺を患い右足を悪くした私は、各地で配慮の足らない医者に裸にされ、患者の前で歩かされたことを思い出し、ボロボロと流れる涙が止まりませんでした。

Fさんという小学校の先生は、自らを“病気の百貨店”と語るほど病気もちで、阪大に見放されて甲田先生を紹介されました。彼はそれまで健康感を味わったことがなく、三度目の断食中に便意をもようし、「コールタールのような便を一合ほどと、小型のウズラの卵が七〇個も出てきました」とみんなに披露しました。卵型の宿便は蜂の巣状になった腸壁に住みつき、栄養が吸収できなくなっていたのです。そんな宿便が出てしまったとたんに、真の健康感を味わったと発表しました。

当時七七歳だったKさんは、生菜食を始めて五五日目に、「白髪の根元が一センチほど黒々としている」と述べ、甲田先生は直ぐに撮影しました。日々目を覚ますような実例を見せつけられ、真の健康法が学べる朝礼を待ちこがれるようになりました。
覚悟していたより断食は楽だったのですが、“あさってから食べられる”と決まった日からいたたまれなくなり、食べ物のことばかり考えるようになりました。百メートル以上離れたカレー店や、お隣の食卓の匂いが伝わってきて食べ物の夢をみてうなされました。そして、五月一三日にはめでたく断食の満了日を迎えました。元々小柄な上に右足の発育が悪いために、体重は十キロ減って四三キロに痩せこけました。一気に食べると腸捻転をおこし命が危ないために、初日には玄米粥を茶碗一杯だけで、四日かけて一日に千六百五〇キロカロリーの玄米ご飯の食事にもどりました。そんな少食でも日々五百グラムずつ体重が増え、待ちきれないほどお腹がすきました。つまり、宿便が減っただけ胃腸の吸収力が良くなり、五月末までに七キロももどして退院しました。その間、普通の人の七日分の一万五千キロカロリーしか食べていません。

甲田医院では『ガンジーの健康論』が必読の書でした。「非暴力と非服従によって英国人を追い出そう」と、全国民に呼びかけたガンジーの断食は、何度となく死線をさまよう壮絶なものでした。その著書には、「性欲は抑制できる!」と明示されていました。禁欲のノウハウは次の六つの条件です。

心身ともにつねに健康で活動していること。

夫婦は別々の部屋でやすむこと。

甘いもの、肉、刺激のつよいものを食べないこと。

早寝、早起きを励行すること。

不浄な読み物をさけ、偉人の生涯に思いをはせるような高尚な書物を読むこと。

毎日、神さまに祈りを捧げること。

私は断食中、現界、霊界、神界を解き明かした未来予言の書、出口王仁三郎著の『霊界物語』五五巻(全八三巻中)を読破し、一ヶ月だけ六項目が実行できた聖人君子?になれた謎が解けました。
退院日の五月末、「腎炎は生菜食で直ります」と確約され、自宅に帰り六月初日から開始しました。朝食は例の野菜ジュース一合だけです。昼・夕食は、二五〇グラムの野菜と半合の水をミキサーでかき混ぜて飲みました。玄米粉七〇グラムを口に入れて噛むと、独特の風味が出てきます。それに大根おろし百グラム。人参おろし一二〇グラム。山芋おろし三〇グラムに天然塩を四グラム振りかけて、一食分で五百キロカロリーです。朝食の野菜ジュースを含めても一日千百キロカロリーです。ウサギの餌のような生の菜食を食べつづけ、毎月地元の鎌田医院で血尿と蛋白を調べてもらい、甲田先生に電話で報告しました。一ヵ月、二ヵ月、三ヵ月と好転せず、我慢の限界にきた六ヵ月目から血尿と蛋白が減り始め、満九ヶ月で完全に消え腎炎は完治しました。その瞬間に「万歳」と叫びましたが、体重は四〇キロに痩せこけていました。あまりの嬉しさに「生菜食を九ヵ月続けました」と伝えました。鎌田先生から「そんなものは関係ないよ」と否定されましたが、同先生は数年後に肺癌で亡くなれました。

三〇年目の今も朝食は野菜ジュースだけで、昼・夕食は玄米ご飯をお茶碗に一杯に、豆腐や豆類、サンマやイワシなどの小魚、海草類、野菜・根菜類の五種類以外を食べないよう努力しています。それらの二皿のおかずと玄米ご飯で一食が約八百キロカロリーで、野菜ジュースを合わせて一日に約千六百五〇キロカロリーです。玄米ご飯は、三時間水に浸けておくと柔らかくなり、圧力釜で美味しく炊けます。先生は「日々千八百キロカロリー以下で生活すると、医者いらずの体になれる」と、少食の重要性をくりかえし力説されています。お腹をすかせると細胞が血液を要求し、血の流れが速くなることから、夕食から昼食まで断食するのが西医学の真髄です。現代医学の心臓ポンプ説と一線を画している西医学に、私は軍配を上げました。

夜は、地下水を打ち込み井戸で汲み上げ、年中一四度の水に一分間首まで浸かって、一分間湯にひたります。一分毎に湯と水を繰り返し、湯は四回で水には五回入り最後は水から出ます。この温冷浴は、血液循環を早めて疲れをいやす速効力があり、一時間ほど全身がみなぎり大変気持ちのいいものです。
 
総括です。一ヶ月間の入院費はたったの九万円です。ベニヤ板の上で寝させ、食べさせないのですから!

五種類の正食・少食・毎日四十分の西式健康体操を三十年続け、二〇〇九年の春にさぬき市民病院で健康診断を受けました。腹囲六八cm(八五㎝以内)・血圧九三~六〇(一三五~八五)・中性脂肪三九(一五〇未満)・HDLコレステロール八六(四〇以上)・空腹時血糖値八六(百一〇未満)と、五つの指標で満点の五つ星を頂き、担当医師から「講演会を開いて三好さんの食生活や運動について多くの人たちにお話ください」と絶賛頂きました。また、大勢から「顔色がよく十歳いじょう若く見える!」と驚かれます。

最後に、玄米が食べられない方々への極意です。自分で精米して白米ご飯を食べてください。残ったベージュ色の糠を混ぜながらフライパンで炒り、茶褐色に変われば火を消してください。その「炒り糠」を毎日大サジ三杯、野菜ジュースなどで飲み込んでください。玄米食を続けたのと同じ成果がえられます。

甲田先生は、「みんなが西式健康法を行えば、大半の医者と薬屋はつぶれてしまいます」と、よく患者を笑わせました。また「二千数百名の癌患者を断食や生菜食療法で治しましたが、癌細胞が七〇パーセントを超えると助からなかった」とのことです。現代医学では直らないとされる難病が、ことごとく好転する事実を直視するとき、年間四〇兆円に迫る“対症療法”や“二種類の死を認める(一人を殺して、一人を助ける)臓器移植”、本人が苦しむ“終末患者の延命処置”への警鐘が聞こえてきます。環境にやさしい予防医学の推進は、動物たちやすべての植物にもやさしく、飢餓の克服や世界平和に直結していると思います。